もういいよ

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時々かくん、と音を立てながら首を振る扇風機の風が、
縁側で数学の問題集を解いている私のところにさぁっと届く。
フレアスカートの裾が僅かに浮かび、こもった熱を冷ましてくれた。

庭に面したガラス戸を全部開けて、和室の障子も開け放って。
そうしてできた縁側と、和室に挟まれた保の家の廊下には、
夏のこの時間、庭木に遮られて日差しが入ってこない。
零れたガラス玉みたいな木漏れ日がちらちらと揺れるだけだ。

年を重ねてつるつるになったその板に腹ばいになり、頬杖をつき、
木の柔らかい冷たさの恩恵にあずかりながら、
チラシの裏側に懸命に数式を書きなぐる。


決して褒められた格好ではない私の横では、
すでに余裕で課題分を終わらせた保が小説を読みながら
時々私の先生役をしてくれていた。

すこし性格の曲がった保の事だからきっと、
苦悶している私の様子を見おろして悪くない気分を味わっているんだろうなぁと、
悔しく思いながらも数式を睨みつけていると、突然、保の気配が変わった。



「…………繭」



その声に、私の心臓は呆れるほど正直に反応する。
秘めごとの匂いを隠した、その掠れ声に。


ぱたん、と本が閉じられる乾いた音がした。



「……かくれんぼ、しよっか」



それは、二人だけの秘密の合図。

そういえば気がついた頃にはもう、その保の声は、
キーの高い子供の声から、低い男の人の声に変わってたなとふと思う。


ちりりぃ……ん、と、二階の軒先で山道を通ってきた風に風鈴が鳴く。
私は、その音にさえかき消されてしまいそうな程小さな声で答えた。



「……うん」



握られたように締め付けられる心臓。
保が、あの言葉を出すときに限って痛みを増す。

心がどこにあるかなんて知らないけど、
心臓がそうだと言われれば、やっぱり、と私は思うだろう。



「じゃあ隠れよか」
「……う、ん」



保は絶対に、疑問形で聞かない。
私に、答えを選ばさない。

だから私は、うん、と言える。

戸惑いがちに数秒置いた空白に、
保がそう言うのなら仕方がないと自己防衛を乗せて。




蝉が、煩いくらい鳴いてる。
蚊取り線香の細い煙が、扇風機の風に巻き込まれてふわりと消えた。








――かくれんぼ、しよか。



いつも、その合図は私にはさっぱり理解できないタイミングで現れる。



冬なら、こたつに入ってマンガを読んでたとき。

かじかむ手でちっこい雪だるまを作って見せたときとか。


夏だったら、べったりと張り付いたTシャツの汗を、
扇風機に向かってパタパタと乾かしてたとき。

前日に見たホタルが、ゲンジボタルかヘイケボタルか、それともヒメボタルか、
あれこれ言い争いながら一緒に図鑑を覗き込んでたとき。


保も含めた同級生4人で川遊びをして、みんなと別れた直後、とか。




そういう時、保はまるで息も気配も殺すような仕草をして、そして、
あの、二人だけの秘密の合図を口にする。




視線の先には途中まで解けかけていた数式が、
その意味をすべて失い、ただ羅列された点になって視界を泳いでいる。


切羽詰まったみたいな蝉の鳴きわめく声がどんどんと意識の外へと遠のき、
ぴりぴりと、自分と外界を隔てる薄い皮膚が緊張した。


そぅっと顔を上げると、何を考えているか分からない保と、目が合った。


眼鏡の奥の目は笑いもせず、あの言葉以外、何も口にせず、ただ私をじっと見てる。


すると保は私の手首を握ると立ち上がり、いつものところに向かった。
私も、何も言わず、保に手を引かれるままその隠れ場所に向かう。





このかくれんぼは、二人とも隠れる。
……鬼なんていない、かくれんぼ。







始まりは、同級生の4人で、保の家で本当のかくれんぼをしていた時だった。
もう何年も前のこと。



少し嫌そうな顔をした保についていき、今いるのと同じ押し入れの中に隠れていた時に、
保の体に、そして自分の体に、たくさんの熱を出して頭を蕩かせる場所があると初めて知った。



「ッ!触んな」



と、狭い空間の中体勢を直そうと動いた私の手がお腹に触れた時、
保は鬼に見つからないよう小声で、でもすごい勢いで私の手を振り払った。

だけど私はそれを本気の言葉だとは思わなかった。
その時は、保と私との間に性別なんてなくて、垣根も隠し事も、
何もないと信じて疑っていなかったから。



「なして?」



だからそれは純粋な疑問だった。
それに、それまでさんざんじゃれて触れ合って育ってきた保に、
触れることを禁じられた事が悲しかったからだ。



「……繭には関係ない」
「なんそれ、なして触っちゃダメなん?」
「……うるせぇの、……見つかるが」



そう言われて私は何段階も声を落とし、保の耳元でそっと尋ねた。



「教えてや」
「ッ……」
「隠し事って、なんか……はがええ。お腹、触っちゃいけんの?」



そういうか早いか、私は暗闇の中、そぉっと保にはみつからないよう、
禁じられてしまった保のお腹に手を伸ばした。



「ッッ!……バ、カッ!!」
「なんこれ!?……っ!」



そこには、触ったことのない感触のものがあった。
少なくとも自分の体の中のどこにもない固さ。
布地越しにあったし、体温があったんだからきっと保の体の一部だ。
でも、じゃあこれはなに?
そう、驚きの声を上げようとした私の口を保の手が封じた。

私は一瞬、保がたちの悪い病気にでもなってしまったのだと思った。
お腹に大きな腫れ物ができて、痛かったり、うつったりしたらいけないと、
だから保は私に触らせまいとしたのだと。



「おまっ……! ……どこ触ったか分かっとんか……?」
「えっえっ……?保のお腹……。どしたんこれ痛いん?病気……?」



だけど私はその時はまだ、それが大きな勘違いだと気づいてはいなかった。
光りのない暗闇の中、それは保のお腹だとしか思わず、
どこか諦めたため息混じりの保の問いかけよりも、
その腫れ物が痛々しく感じられて仕方なかったのだ。



「痛かったん……?ごめん。熱もっとった」
「……」
「うつるん?これ……」
「ッ!」
「保、病気なん?」



だが、その部分を少しでも癒せればと、私がさすさすと腫れ物を撫でさすると、
保は慌てて私の手を払いのけた。

そしてあろうことか、呆れと諦めとやけくそを全部混ぜたみたいな荒っぽさで、
正座した格好で保に対面していた私の股間に、ずぼりっ、と手を突っ込んできた。

捲れたスカートが、くしゃっと脚の付け根に塊をつくる。



「きゃっ!!」
「仕返し」
「な、なっ……!?」



あんまりの出来事に絶句した私に、保は幼子に言い聞かせるような口調で
淡々と事実を教えた。



「俺は病気じゃない。むしろ正常。男にはチンコがある。女のお前にはない。
で、男のチンコはこがいに」
「え、えっ……!」
「場合によって大きうなる」
「お、おっきく……?っ!」



そう言うと保は、払いのけた私の手を再び引き寄せ、
今度は保自身の手で、その腫れ物に私の手のひらを触れさせた。


重ねられた保の手に押さえつけられたせいで、はっきりとその形が掌に伝わる。


薄ぼんやりと遠い未来の事を聞くような感覚で受けた保健体育の授業を思い出す。
男と女は体が違うんだなあと、それくらいにしか思っていなかった。
でもこれは、思っていたよりも違いすぎる。


お腹に伸ばしたつもりの手は、そこを通り越して保の股間に触れていたのだと
このとき初めて知った私は、まさに顔から火が出るほどに全身が熱くなり、
そしてなんの言葉も口にすることができなくなってしまった。

自分の勘違い、自分の体の秘められるべき一部を他人に初めて触られている、
他人の体の、秘められていた一部に初めて触れている。
三重の恥ずかしさが襲いかかって私はもうパニック寸前だった。



「……繭、お前……なんも知らんのな。もうじき中学やのに……ガキすぎ」
「い、や、保、手どけて」



酸欠みたいに頭がくらくらした。
保のばかにする言葉も耳に入らない。



「繭が締めつけとるんだろうが。脚、力緩めろや」
「やっ、動かさんでっ!」
「やけー……力、抜けって」
「だ、だって……っ!」
「あー……めんどくせぇが」



そう言うと保は、私の太腿に挟まれていた手を、無理矢理ひっぱり抜こうとした。
その時。



「ひゃンッ!」
「っ!な、ん……」



まるでアソコ全体を覆うようにあてがわれていた手が抜き去られようと動いた時、
その指先がどこか、痛みに近い程とんでもなく刺激を伴う場所をかすめた。

自然と押しだされるようにして出たその声に、
私は驚きと、強烈な羞恥を感じ手で口を塞ぐ。

保も、驚きの声を少しだけ出して、二人の動きは完全に止まった。

自分の身に何が起こったのかさっぱり理解できない。
びくんっと勝手に体が跳ね上がるような刺激が起こる場所。
そんな場所、自分は知らない。



「……」
「……」



沈黙が、押し入れの暗闇に満ちる。
変わらず腿に挟まれた保の手も、微動だにしない。
この空気を打開する言葉を、私は思い付けずにいた。

でも、その空気はいつの間にか濃厚なものに変わり、
ちりちりと頭の中が焦げてしまうような感覚がしていた。

胸が、心臓が、ものすごい速さで動いてる。
なにか、とんでもない事に直面したときのように。



「……繭」
「……」
「秘密……教えたろうか」



暗がりから、保の押し殺したような声が聞こえた。
その声音に、なぜか残酷さが含まれているような気がして、
私は緊張で乾いた唇を開き、小さく尋ね返す。



「…………ひみつ?」
「女も、今俺が触っとった場所をこすると気持ちよーなるらしいで?」
「こする、って……どーゆーこと……?」
「……オナニーって知っとるか?」
「お、おなにーってなん……?」
「…………まじでなんも知らんすぎ」
「た、保が知りすぎなんよ!なんよ、お……おなにー……って」



その単語の意味が分からなくても、
口に出してはいけない類のものだと直感が告げている。
だけど暗闇は、私を、保を、大胆にさせていた。



「自分で気持ちようなる方法。……てか繭、いい加減脚の力抜けや。手、痛いが」
「え、あご、ごめ……、ッ!」



はっと我に返って腿に込めていた力を解いたけれど、
抜き去られると思った保の手は依然脚の間にあるままで、
そうっと見上げた視線が、保の視線とぶつかった。



保は何も、言わなかった。
私も、何も言わなかった。



だけど、次の瞬間にはもう、
そろり、と、保の指先が今度は故意に、目的を持って動かされていた。



「っ、……」



そして僅かに、その指先が布擦れの音をたて、股間の柔らかな丘に触れた。
くっ、くっ、と押される度に飲み込む私の息の音と、
殺しきれない興奮に鳴った保の喉の音が混ざる。

手が、私のアソコ全体をぐいっと押した。
コットンのパンツ越しに保の温度が伝わってくる。



「……ほんまに何もない。……どうなるんかの、女の場合……」
「なんが……っ」
「知らんより知っとるほうがええが……お互い」



あまりの羞恥に体が震える。
それなのに逃げられない。
だってすでに、ぴりっ、とお腹の奥で響く、
むず痒いような感覚を見つけてしまっていたから。
大きな好奇心が、どうなるの?って鎌首を擡げてる。



「こ、こそばゆいっ、たも、つ、やめ、っ」



ぐいぐいと、掌の厚い部分が股間に食い込まされる。
そのたびに、くすぐったさと混じって不思議な感覚が広がっていった。
ぼぅっと、全身が暖かくなるような感覚。


でもそれが自分にだけ起きている現象ではないと、保の息遣いを聞いて分かった。
せわしなく吐き出される呼気に、おにごっこをした時とも、
かけっこをした時とも、そのどれとも全然違う匂いを感じる。
それは、自分の口から吐き出されているものと全く一緒だと感じたから。

未知の世界に対しての大きすぎる好奇心に満たされた保の眼が、じっと私を見ている。



「た、たもつ、だ、め、っ……そが恥ずかしいとこ、触らんで……っ」
「…………いけんことしよるの、俺ら」



――イケナイコト



「っ……!」



その意識は、緊張と、正体も知れない昂奮を呼び寄せた。



「い……いけん、こと……」



まるで尿意のようなじわじわと迫るなにか。
なんだろう……これ、と、思った瞬間、さっと保の手が私の股間から抜き去られた。



「……え……?」



どうしたのと尋ねようとした時、その理由が分かった。

バタバタと畳を踏み付ける音が襖の向こうに迫っている。



――そうだ、かくれんぼ、してたんだっけ……



保の体温が腿に、熱は体内に残っている。
けれど、襖一枚隔てただけの向こうに忍び寄る鬼の足音がすぐそばで止まった時、
さすがに私たち二人は正気を取り戻した。



――カタ……



襖にそぅっと手を掛けた音がする。

そしてその直後、ものすごい勢いでその境界は破られ、
焼けるように視界が真っ白に染まった。

光に目が慣れる前に、鬼だったたけちゃんの嬉しそうな声が耳に入る。



「あ、やっぱここかぁ!!保みっけ!!ん?なんや繭、保と一緒かや。繭もみっけ!」
「……あー、見つかった。俺らが先?」
「いんや、最後。一番は歩美。あいつすぐそこの木の裏におったけどはみ出とった。どんくさいよなぁ。
 てかこの場所は盲点。近すぎて絶対誰もおらんと思ったのに!しくったわぁ」
「ははっ、武信は案外考えが分かりやすいが」
「はー、失礼なやつやの。歩美なんか、たけちゃんすごい!よくわかったねぇ!だが」
「天然やけ、歩美は」



笑い声をあげるその、あっという間の保の変貌ぶりに、
私は不思議なものをみるような気持ちになった。
私の中にはまだ、なにかふわふわしたものの欠片が残ってるのに。



「ん?繭、なんか顔赤ぁないか?」



そんな事を思っているとたけちゃんが私の顔を覗き込みそう言った。
見抜かれてしまったようなバツの悪さについ眼を逸らしてしまう。



「そ、そかね?たけちゃんが見つけるん遅いけ、……のぼせたが」
「そりゃあ押し入れじゃあなぁ。てかお前ら二人してこげんとこ隠れて、やらしいわあ」
「繭が勝手についてきて便乗しよった」
「繭ぅ、こげんヤツとおったら危ないがー」



つい十数分前の自分だったら、
たけちゃんのからかいの言葉の意味さえ分からなかっただろう。
きっと、きょとんとした表情で尋ね返せていただろう台詞。


それがもう、深い意味を含んでいるように感じられる。
いやらしい、いけないことを指摘されたようで、私は思わずどもってしまった。



「な、なんが?」
「なにされっか分からんって」
「ばーか。武信、繭な、まじガキで?からかい甲斐がないっちゃ」
「……ガキじゃなか。同い年やし……」



笑いながらからかってくるたけちゃんに、保が馬鹿にするセリフを上乗せする。
いつもだったら思い切って言い返すような場面だったのに、
私は、もう、ひきつった笑顔で一言つぶやき、
まるで逃げるように押し入れから飛び降りる事しかできなかった。







そして、あれから中学に入り、高校に進学し、今までも。
あの秘密の、二人だけのかくれんぼは続いている。


一回目は事故みたいなものだった。


だけど二回目からは言い訳を自分の中で探して作った。

中学に入って最初の夏休み。
保が何も言わず私の手をひっぱり、押し入れへと連れていったから。
だから私の意志ではない、と。

そうやって言い訳を作らないといけないくらい、私はなぜかその秘密の誘惑に弱かった。
第二次性徴を迎え始めた互いの体に起る沢山の変化を知りたいと、
まるで本能がそう言っているようだった。

そして三回目、保は言った。



――繭、かくれんぼしよか。



と。



何度も、何度も。
その隠れる場所だけは変わらず、回数だけが重ねられていく。



でもその時以外は何も起こらなかったし、何も変わらなかった。



キスも、ましてやセックスもしたことがない。
押し入れの外で肌が触れることもない。
なにより、保は恋人じゃない。
この歳になってそれなりに身に付いた倫理観が、
今の状況が普通ではないと警告を鳴らす。


だからかくれんぼは、本当のイケナイコトになり、
まさに二人だけの秘密になってしまった。


でも、それなのに拒めない。
ただ、私は人形のようにじっと、保の動きに身をゆだねる。


だって、あの頃とは違う。
今はもう、知ってしまったから。


どんなに言い訳を作っても眼を逸らしても、
私は、保の手で快感を覚えているのだと。







押し入れの、白い鷺が飛ぶ絣の入った和紙の襖を開け、保が先にそこに入った。

二段になったその下には座布団。
半間はお客様用の布団で一杯になった、その反対側。
薄っぺらい冬用の敷布団が一枚だけの小さな空間。

微かにナフタレンと、杉の木の匂いがする。

この歳になってはもう、膝を僅かに折らないと入れないほど狭い、真っ暗な、押し入れの中に。



昔は、二段目は高くて一人で上がれなかった。
だから保にいつも、ひっぱりあげてもらってた。


今は、自分で上がれる。
だけど、自分からは上がらない。


ぐいっ、と腕を引くその力の強さになぜか胸を締め付けられながら、
決して自分からここへ入るのではないと、また言い訳を作る。


布団を包んだ大きな風呂敷に彩られた、
朱色の折り鶴の柄が、すぅっ……と、暗がりに消えた。

……たん。

そんな木と木のぶつかる小さな音を立てて、
保が、押し入れの襖を閉める。

背後にいる保の気配がどう動くか、私は神経を背中に集めて息を止めた。

だけど光りを失った空間に、自分を溶け込ませるようにして息を殺す保の、
その視線が一体どこに向いているのか確かめるのはなぜか怖くて、
私はただ、何も見えない足元に目を落としていた。



でも、それも、いつも通り。



拍子木が鳴るようにしてこの行為は始まる。
ある意味、ここは別世界。
だからお互いに、こんなことができてしまうんだと思う。
むしろこの場所でなかったら決して、
保と私との間に何かが起こるなんてありえないと、そう私は思ってる。



消しきれない互いの息遣いだけが、布団に吸い込まれ、そして私の耳に響く。
保の指先が、暗闇と私との境界を確かめるようにして、音もたてず私の髪に触れた。

背後にいる保の体に、私はできるだけ触れないように背筋を伸ばす。

それでも狭い空間に人間が二人入っていれば触れる箇所は必ず生まれ、
そこは何かの反応を起こしたように熱く熱くなった。


背中にまで伸びた髪を、その毛先まで梳いていた保の指先が耳の輪郭をなぞる。
その付け根を、そして首筋へとくだり、ゆっくり、ゆっくりとある場所を目指す。


首筋を通って、Tシャツから覗く鎖骨に触れて、二の腕に、そして、手首に、掌に。


昔に比べて筋っぽくなった保の手が、私の手を包む。
それは、私の合意を試すようなそんな動作。

嫌なら振りほどけと言われているようだと、いつも思う。

だけど、私は動けない。
何をされても、何があっても、きっと、捕まった人形のように逃げないと思う。

どうしてかなんて考えたくもなかったけれど、
でも、もう分かってしまっていた。

この、甘美な行為に逆らうだけの強い理性を私は持っていないのだと。
できれば、溺れているのは私だけではないと、
せめてそれだけでも教えて欲しいといつも、思う。



「っ……は……」



殺すように止めていた息を吐き出す。
心臓が、こんな程度の酸素じゃ足りないと怒ってる。

もっと、もっと、大きく息をしろと。
もっと、その出てしまいそうな淫らな声を出せと。

正確な場所なんてわからない。
でもアソコが。
ぴりぴりと、どきどきとざわめく。



何にも触れていなかった保の左手が、
誘うようにして私の膝の裏に手を差し込む。

狭い空間、ぎこちなく動きながら、誘導されるままに私は保の下半身の上に、
そのまま身を乗せる形にさせられた。

押し入れの壁に背を預け、体操座りをしているような体勢だった保の、その上に。



保の開かれた両脚の間に自分の体を入れようとしたら、
無言の保が、強い力でそれを制した。


一度、保は両脚を閉じ、私にその自分の両脚を脚で挟ませた。
そして、ぐぃっと、有無を言わさず私の肩口を自分の方へと押しつけた。



「ぁっ」



背中いっぱいに、保のお腹と胸の感触がする。

暑い、狭い、蒸すその空間だから、
二人とももう汗をたくさんかいていて、だから、うすっぺらいTシャツ同士の意味は、
はっきり言ってほとんどなくなっているんじゃないかと私は思った。

熱が、脳を蕩かせる。
予想が、また、息を荒くさせた。



保の両脚が、ぐ、ぐっ……と、大きく開かれる。
だから、保の脚を挟んでいた私の脚も、左右に大きく、はしたなく、大きく開かされてしまった。



「っ……い、や……」



すんなりとその動作を受け入れるわけにはいかない。
だって、それじゃあまるで、期待しているようだから。
……期待していると保に分かってしまうから。


内腿に力を込めて、開かれる保の両脚を強く挟んで閉じようとするけれど、
もちろんそれは何の役にも立たなかった。

ただでさえ小さな自分の体なのに、
保の体分、開かされた脚はもう、付け根が痛いほどに大きく開いた形にさせられてしまう。

うっすらと暗闇に見える自分の開かされた脚を見て、
テレビでみたことのある、子供を産むときの妊婦さんのような格好だとふと思った。
そんな経験、もちろんないけど。


そして、暑いからと、それだけの理由でスカートをはいてきた事を後悔した。
ジーンズだったらよかった。
そしたらこんな、欲情にまみれた、大人の女のような光景は見ずに済んだのに。


つるつるした手触りの、化繊のフレアスカートが、
なんの抵抗もなく腿の付け根までめくれあがっている。

水彩で描かれたみたいな赤い花のプリントが、暗闇に黒く淫靡に映った。

それなのに自分の脚だけは、真っ白で、
内側に赤色が詰まってるなんて思えないほどだ。


ふるふると、恐怖ではなく羞恥に震えるその肌に、保の手が、ぴとり、と触れた。



「っ!……」



しっとりとかいている汗がどちらのものかわからない。
真っ暗すぎて、二人の境界なんてあるようでないのだから。

だけど絶対的に保と私との境目がわかる部分がある。
それは、私のお尻と、保のあそこ。

少しだけ私より体温の低いその掌が腿に触れた瞬間、
保のあそこはぐぅっ、と熱を増して、私を押し上げるように固く膨らんだ。



「っ……」



その感触に、思わず喉が鳴る。
私がこく、と唾を飲み込んだ事に気がついた保が、耳元に口を近づけ言った。



「相変わらずやらしいの、繭は」
「ぁ……」



私は耳が弱いのだと、保のせいで知った。
ぞわっと身が縮むような感覚に襲われ顔をそむけようとすると、
保の唇が耳朶に噛みついた。



「ひゃっ……!」



じゅぶ……と、粘着質な音を立てて保の舌が耳に入れられ、私は思わず声を上げる。
腿に触れていた保の手が、じりじりと反応を愉しむように脚の付け根に向けて進められ、
じらされているような羞恥にまた、背中が震えた。


やらしいのはどっちだ、なんて言葉を口に出したらどうなるだろう。

学年が進むにつれ自然と身に付いた知識。
男がイクとどうなるかを知った時、私は愕然とした気持ちを味わった。
保は今まで一度も、私の前でイッた事がない。

たった今、ふくらみを増したその器官を見たこともない。

それなのに私は、私だけは、こんなにあっという間に快感に溶ける体になってしまった。
だから、言えない。
やらしいのはどっちだ、なんて。


脚に触れていた保の手が、すっと離れ、そしてTシャツの上から胸の膨らみを揉んだ。
背後から忍び寄ったもう片方の手は、裾を持ち上げ、ブラジャーに包まれた胸に被さる。



「ぁ、……んっ」
「……昔はぺったんこやったのに。ずいぶん育ったの」



保の両手が素肌に触れ、ブラジャーのワイヤーをぐいっと上に持ち上げた。
耳に囁き込まれる言葉に、からかいの笑いが含まれる。
ふるんっ、とブラジャーからはみ出された乳房を、保の両手が弄り始めた。

二つの乳首を同時に摘ままれ、一瞬にして私の意識は深いところに落ちていく。



「ッ!ぁ、ぁっ!りょ、りょうほう、はッ……、あッ!だ、め」
「前、胸だけでイッたもんの、繭は」
「ち、ちがっ……っん」



柔らかなものをくにくにと潰すようだった保の手が、
硬いものを転がすような動きになった事で、自分の乳首の状態を知る。

どうして、自分の体の中にはこんなにも沢山、気持ちのいい場所があるのだろう。



「ああ、耳も一緒じゃったっけ?」
「んぁっ!やっ、あ……」
「でもそんだけで十分やろが……?やらしくなったのー繭?」
「なっ、なってなッい……保ん、せいやしっあ」
「ふーん?そうなんかの?素質じゃろう」



そう言うと保は、胸を解放し、片手で私の口を塞いだ。



「んむっ!」
「どっちのせいか、証拠、探そっか」
「ッ!」



暗闇に慣れた目が、うっすらと、私の股間に忍び寄る保の手を見た。
分かってる。そんなことをされなくても。

ぐずぐずに湿ったショーツが、ぴったりアソコに貼りついている感触。
熱を増してる保のアソコに、ドキドキしっぱなしの自分。
口を塞がれ、脚を開かされ、まるで犯されているみたいな状況。
知ってる。
私は、溺れてるんだって。

耳が弱い。首筋も。
乳首も、弱い。
膝頭もくすぐられれば身がよじれて、
脇腹をさすられれば胸がどきどきした。

そしてアソコも。
全身くまなく探されて、沢山、弱いところを保に暴かれた。
それなのに何年経っても一向に消えない羞恥心はきっと、
心の底で「イケナイコト」だと思っているから。


口を塞がれ短く吐き出すしかなくなった鼻息を、
それさえも恥ずかしく思いながら抑えていると、
そぉっと宝箱を開けるようにゆっくりと、ショーツの中に保の大きな手が入ってきた。



「見つけた」



くつくつと笑う保の声に耳を塞ぎたくなりながら、代わりにギュッと強く瞼を閉じた。
保の指の動きのとおりにぐちゅぐちゅと腟口がイヤらしく鳴く。

溢れるほどに沁み出た愛液は、どうやっても隠せない快楽の証だ。



「ッふ、ンンっ……」
「処女やのになぁ……。ここまで敏感になるとは思っとらんかったよ?」



くぽっ、と滑稽な音を立てて挿れられた指は、保の言葉の通り、
途中で歩みを阻まれたようだった。
ひりつくような痛みを感じ、怖さに腰が逃げる。

だけど、ジーンズ越しでさえはっきりと判る程硬くなった保に、
自分からお尻を押し付ける格好になり余計に逃げ場を失ってしまった。



「開発、ってやつかの?」
「ンンっ」
「繭はどこが弱いんか、時間かけて、全部探したしなぁ」



保の眼鏡が小さく音を立てて頭に触れる。
くすりと漏れた笑い声が髪の毛をくすぐった。

胸がまだぺったんこで、アソコにはそんなに茂みもなくて。
そんな時からずっと保は私の身体を知ってる。
知られてしまっている。

隈なく探して、見つけられて、躾けられてしまった。

こうされるのが好き。
とろんと温い粘液が頭を満たすような感覚。
熱が上がって、全身を快感が突き抜ける瞬間。



「でも一番イイんは、ここよの?」
「ッ!ンッ!」



保の指が、ズクズクと疼いていた花芽に軽く、触れた。



「んぅっ!!」
「脚、閉じんなよ?」



軽くとはいえ突然触れられ、ビクッと全身に力を入れた私を保がやんわりと咎める。



「声も……。鬼に見つかるだろうが」
「ぷはっ、は、んっ!ふぁ、っ、ンッ、ンッ!」



ころころと莢ごと芽を転がされたかと思うと、
保はからかいながら無理難題を押し付け、
そして私の口を塞いだままの手から中指だけを口内に突き入れてきた。



―― オニなんは保やろ……?



こんな時はそんな風に思う。
すごく愉しそうに私を弄ぶから。

それでも、堪えられず漏れる喘ぎ声を保の指に阻まれながら、私は溺れ続ける。
ジンジンと大きすぎる性感に頭が働かない。



「繭のクリ、勃起しよる」
「ッ……、ヘンタイ……!」
「お互い様やろが?……こんだけ勃っとったら摘めるよなぁ、もう」
「ッ!」



嫌な予感に、ざわつく期待に、心臓がまたぎゅぅっと締め付けられた。



「や、っ、やめ……っ」
「なして?」



そうやって尋ねておきながら保の手が再び口を塞ぐ。

でもちょうどよかったなんて心の隅で思う。
もう、抑えられない。声も、快感も。



「ンンッ、フ……ッ!」
「もうイきそうやけんか?」



そう、とっくに分かってることを口にした次の瞬間にはもう、
保の指が私のはしたなくしこりを増した秘芯を摘まんだ。



「ンン~!ッ!ンッ!!!」



もし、口を塞がれてなかったらきっと悲鳴に近い声を上げてた。
何かのスイッチが入ったみたいに勝手にびくつく体が保の上で跳ねる。

強烈すぎる電流に、暗闇のはずの眼の前が真っ白に染まった。



「そういやもういっこあったなぁ、繭が好きなんが」
「ンンッ!ン!っぷあ、あっ!」
「言葉で責められるんも」
「や、ぁッ……!ン!ふ、ンンッ!」
「淫乱でドMで、なのにまだ恥ずかしがって」
「ン!!!!」
「人形みたいに弄ばれるんも、犯されよるようなこげん格好も、好きなんだろが」



脚が、だらしなく保の脚に大きく開かされてる。
アソコを広げ、保のいいように弄られ、私は悶えている。

ただ、どうしようもなく気持ちいい。
言い訳も見つからない、逃げる気持ちも一切起きないほどに。



「涎零れよるで……?ここもヒクつきっぱなし」



気がつけばもう、なにも考えられないほどに頭の中は快感で満たされていた。
零れた私の涎に濡れた手を、保が胸へと伸ばす。
ぬるぬるとしたその掌が乳首を捉え、そして保の唇がまた、私の耳を食べた。



「声、我慢せぇよ」
「っふ、ン、んんー!!」



そう言われたから私は、馬鹿なほど従順に、自分の手の甲を噛みしめた。
ぐぢゅぐぢゅと狭い空間に響く音が、一体どこから出てるのかももう、分からない。

全身が、絶頂の予感にびくびくとおののく。



「繭、イく時はなんて言うんかいの……?」



理性なんて一片も残ってない頭に、保の声が染み込む。
その、掠れ声に私は、よく手懐けられた犬のように躊躇いなくおねだりの言葉を口にした。
秘め事の中で躾けられた、いくつかの言葉のうちの一つ。



「っく、……ッ!ァ、イク……っ!イって、いい……っ?イかせてぇっ!!ぁ、アだめ、も……ぅっ……!」
「よお言えました……ええよ、イッて」
「んうっ、ぁ、イク……っ!ンッ!!!!ンゥンンン!!」



ひどく粘着質な音を立てながら耳を責められ、
自分の涎でぬるつく保の指で乳首を弄られ、
火がつく程にしこりを擦られて、私はイッた。

おっきな波が私を攫って、そのまま深く深くに沈められる。
まるで、もう準備は出来てるんだけど、と告げるように、
ひくつく膣口からこぷっと、収まりきらなくなった愛液が溢れた。





そうしていつも、思う。



――なして保は、抱きもせん私にこんな事をするんかな……。



と。







翌日、あの後結局解けきれなかった数学の課題のお陰で私は、
放課後の居残りを余儀なくされた。


保のせいだ、なんて思わなくもなかったが、
大本を突き詰めてしまうと結局は自分のせいになってしまうのは分かりきっている。
だから、もう保と、保とのかくれんぼについては考えないようにする癖が私にはついていた。


だけどそれはきっとお互いにそうなんだと思う。
あの空間だけは特別なのだと、きっと二人とも思っている。


私の荒ぶる息が整う前に、保はいつも先に押し入れを出る。
そして火照った頬がようやく落ち着きを取り戻し、
真っ白に見える部屋へと私が戻る頃にはもう、
保は普段通りの無愛想な表情をしてテレビを見たり本を読んだりしているのだ。

あの空間で起こった熱などどこかへ消え失せたとでもいうように接せられてしまうと、
何かを尋ねることも、深く考えることも、保への態度を変えることも、
ましてや誰かに相談することも出来るわけがなかった。



――ダメな女……よなぁ……



はぁ、と溜息をつきながら誰もいなくなった教室を眺める。
自力ではなかなか解けそうにもない数学のプリントに、また一つ、溜息が出た。



「あー……もう、なんもわからーん……!」



そう思わず机に突っ伏し嘆き声を上げると、
ガラララッと教室のドアが開く音がした。

ぱっと顔を上げ教室の入り口を見ると、そこにはたけちゃんの姿があった。



「おっ、苦しみよるかー?」
「たけちゃん」



たけちゃんはあの時のかくれんぼの鬼だった、数少ない私達の同級生の一人。

同級生イコール幼馴染だと言い切れる田舎の学校だから生徒数も少なくて、
グラウンドで部活をしていた生徒がもういなくなっているのには気が付いていた。

だからこの時間になってまだたけちゃんがいるのは珍しい。
何か忘れ物でもしたのかな、と思った。

教室に入ってきたたけちゃんは、少し泥で汚れた体操服とジャージ姿。
中学に入ってから彼はサッカー一筋、走り回るのが大好きだった子どものころを考えると
きっとたけちゃんに向いてるスポーツなんだと思う。



「廊下まで声、聞こえたで」
「だって先生が課題よりちょいむずいのに変えたんじゃもん」



そう言うと、たけちゃんは私のところにまで来て課題のプリントを摘みあげた。
そしてうえっ、と顔をしかめ、「こまっちゃんイイ性格しとんなぁ」と数学の教師の名を口にした。



「これ、繭が苦手なんばっか選んで問題作っとるで?」
「え、そうなん?……やけん、こげん難しいんかぁ……」



たけちゃんは数学が得意だ。
テストのときにはいつもヤマを教えてもらっている。
うまく活かせたことはあまりないけれど。

それにしてもたけちゃんの言うとおりだとしたらなおのこと、
自力で解ける自信なんて欠片も持てない。



「まあ自業自得。でも課題、……保に教えてもらやよかったのに」
「……んー……うちの出来が悪すぎて諦められた。……多分」



保の名前が友達の口から出るたび、どきんと心臓が震える。
だけどそれもいつもの事。
隠し事をしているという罪悪感があるからきっとそうなるんだと、
いつからか納得して慣れるようになった。



「……じゃあもう保、帰ったんか」
「うん、帰ったよー」
「ほうか……」
「にしても……これ、解けんかったらうちどーしたらええんかねぇ?学校に泊まりになるが」



あはは、と冗談のような冗談にならないような言葉を口にする。
視線の先で空白の回答欄が自分を嘲笑ってる気がした。

すると、たけちゃんががしがしと後頭部を掻きながらぼそっと言った。



「あー……なんなら教えたろうか?」
「え?あー……でも悪いよ、もう部活終わったんじゃろ?金曜日じゃし……」
「やけー、この後予定があるわけでもないが」
「んー……でも」



身から出た錆をたけちゃんに手伝ってもらうわけにもいかない、
そう思い、厚意を素直に受け止められずにいたが、次の一言で気持ちは変わった。



「1時間もかからんと思うで?」
「え!うそ!………………。えーっと、……すみません……よろしくお願いします……」
「うむ。よろしい」



背に腹は代えられず、ペコリと机に土下座した私に、
たけちゃんは腕組みをして偉そうなふりをしながら笑ってくれた。
ごめん!と手を合わせ拝みつつ、私もつられて笑った。



結局、小松先生の意地悪かつ指導愛に満ちたプリントは、
たけちゃんの適切なアドバイスのお陰で1時間もかからず終わった。

それでもすっかり太陽は西の山に近付き、
初夏独特の、淡い紫の夕焼け色に教室の中は染まっている。



「終わったぁぁ……!たけちゃん天才じゃねぇ、スゴい~!」
「ははっ。大袈裟だが」
「んーん、ほんまにありがとう!うち一人じゃったら……ある意味終わっとったわぁ……」
「プリントは?先生んとこ持ってくんか?」
「ううん、教卓に置いとけって言われた。明日は休日出勤じゃって嘆きよったよ先生」



教卓にプリントを置き、改めてたけちゃんに小さく、ありがと、とお辞儀をした。



「でもまぁ、良かった。お役に立てたようで」



そう言ってたけちゃんは、少し照れくさそうに笑った。
おっきくなっても笑った顔は小さい時とおんなじなんだなとふと思う。



「うん!今度ちゃんとお礼さして?んー……ジュース、とか?」
「なんかケチぃのー?」
「じゃあ部活用のタオル、とか?」
「それも別に……」
「ほいでもうち、勉強じゃお返しできんし……」



あまり乗り気ではないたけちゃんの態度に、
どう恩返しをすればいいかと悩んでいると、たけちゃんが言いにくそうに口を開いた。



「…………あー、じゃあ、リクエストしてええか……?」
「ん、なんか欲しいもんあった?」



ぱっと見上げたたけちゃんの眼は、まっすぐ、私を見ていた。



「繭」
「ん?なん?」
「……やけぇ、繭」
「…………ん?」
「……鈍いヤツやのー……」
「へ?」



何を言ってるのかさっぱり分からず首を傾げ尋ね返し続ける私に、
たけちゃんは呆れたように溜息をついて、そして、
鈍いらしい私にも正しく伝わるよう、言った。



「五條繭さん?俺と、付き合ってくれんか?」
「……。……え!?つ、つっ……?」



教科書を読むように句読点まで分かるほど丁寧に。
お陰できちんと言葉の意味は伝わったけれど、
欠片も考えたことのないその台詞に頭が真っ白になった。
たけちゃんから見ればきっと、私はぱくぱくと口を動かし、
さぞ間抜けな表情をしていることだろう。



「彼女になって欲しい。俺は繭が、好きなんよ」
「…………す……すき、……て」



世界が変わるような気がした。
平穏無事で平坦で、波も風もない毎日が、
がらっと一変するようなそんな恐怖にも似た緊張感に、
私は何も言えなくなってしまった。



「頭、真っ白?」



それを見透かしたのか、たけちゃんがそう言う。



「う、うん……。だって……」
「考えてもみんかったけぇやろ」
「…………」
「考えてみてくれんか」
「考える……?」
「俺と、付き合えるかどうか」
「……つ……付き合う…………」



付き合うって、なんだろう。
そもそも好きって、なんだろ。
男と女に起る、まさに今直面している初めてのシチュエーションに、
なぜか、保の姿が頭の中をちらちらとかすめていく。



「……ダメでもオッケーでも、明日までに答え出してくれんか?」
「……明日?」
「まぁ、色々あって。急なんは分かっとるけど、明日までに答え、出して?」
「…………」
「恋愛は直感も大事……とか俺は思うとるよ。考えたけーって、正しい答えが出るとは限らんじゃろ」
「…………」



戸惑いが脳を支配していた。
ぐるぐると廻る思考に、頭がついていかない。



「……びっくりしたか?」
「う、うん、そりゃあ……だって……」



さっきから見えるのは、自分のつま先ばっかりだった。
上履きちょっと汚れてる、とか、そんなことを考えて、
そしてまた、少しも変わってないこの困った状況に息が詰まった。



「…………繭、こっち向いて?」
「え?」



だけどその膠着状態は、たけちゃんのその一言で崩れた。
見上げたたけちゃんの顔が、まるで知らない人のように真剣で、
横目に見えたその両手が、私の頭を鷲掴みにしたから。



「んっ……!?」



その次の瞬間には、見開いた目の前に、目を閉じたたけちゃんの顔があった。
がっしりと掴まれた頭は横にも後ろにも動かせず、
唇には確かに、たけちゃんの唇の感触があった。


キスを、されている。
生まれて初めてのキスを、たけちゃんに。


何が起きているか分からない程、自分は鈍くないみたいだった。

私の髪をくしゃりと手に絡めながら、たけちゃんが私の唇を食べてる。
抗議の言葉を出そうとした瞬間には、
たけちゃんの目が開いて、私の見開いたままだった視線と合った。


それと似たような眼を、私は知ってた。



――保。



そうか。
あれは、欲情した、男の人の眼だったんだ。




とにかく離れなくては。

なぜかそう思い、私は両手でたけちゃんの腕を押した。
だけど押しても押しても、腕はびくりとも動かない。
それどころか私の体は抱きしめられるような形にされて、
そして、ガタタッと大きな音をたてて、あろうことか机の上に押し倒されてしまった。

たけちゃんの大きな体が私の上に圧し掛かる。



「……んぷっ、は、んんんっ……!!」



脚をばたつかせても、手でたけちゃんの体を押し上げても。
肩口を掴まれ机に押しつけられた私はただじたばたともがいているだけで、
唇の隙間から差し込まれた舌のざらついた感触に一気に心拍数が跳ね上がった。



「ぷあっ!ちょっ……、まっ、て……っ!たけちゃっ……!」



でも、たけちゃんは無言のまま私の胸に手を被せた。
そして、制服に隠れた膨らみを、揉みしだいた。



「……ッ……くっ……」



何枚もの布越しに、指先が時折乳首に微かに触れる。
そのじれったい感覚と、内側を抉るような不快な感覚に眉根を寄せ、私は耐えた。

目の前にいるのはたけちゃんで、幼馴染みで、決して嫌いではない相手なのに、
なぜか全身が粟立つ。



「反則じゃし、そげん表情……」
「たけちゃ、やめっ……」
「……」
「ゃっ!やぁっ!」
「耳?」
「ぁっぅ」



ぞわっ、と身が竦んだ。
胸にも、耳にも、確かに快感が生まれつつあった。

自分の体は、悲しいくらい快感に弱いと知らしめられる。
だけど。



「匂いは甘いのに、ちょっとしょっからい」
「ンッ……!」



ひとしきり耳を食んでいたたけちゃんが、
今度はぢゅうっと音をたてて首筋に吸いついた。



「はぁ……繭……」



ごつごつした手が、焦っているように体をまさぐる。
でも、その手がスカートを捲ろうとしている気配を感じた時、
堪えていたものが一気に弾けた。



「い、いやっ!!」



ざわざわと鳥肌を立たせていたのが嫌悪感だったんだと、
私はこの時初めて気がついた。

大きく制するように出した私の声に驚き、そして正気を取り戻したようなたけちゃんが、
気まずそうに私を見おろす。



「…………わりぃ。なんか……言い訳やけど繭、えらい色っぽくて……理性飛んだ……。悪い」
「……」
「ほんまに、悪かった。ちょい焦っとって……はぁ、最悪やし、俺」
「……」
「……ごめんとしか言いようがない、けど……さっき言ったのは……本心……」



そう言って、たけちゃんは無言の私から、名残惜しそうに体を離した。

心臓が、まだばくばくと脈打って落ち着かない。
胃のあたりが痛くて、たけちゃんを直視できずにいる。



「ほんまに……堪えられんくなるくらい好きなんよ、繭の事」



それはさっきまでと同じ人間とは思えないほどに優しい声だった。

そして、ようやく私が顔をあげたときにはもう、
たけちゃんは教室を出て行こうとしていた。



「ダメでもええ。……明日、教えてな」



そう、小さく呟いて、たけちゃんは教室を先に出て行った。
後に残された私は机の上でしばらく、床に転がった筆箱とシャーペンを眺めていた。




――怖かった。




自分は、快感に弱くて溺れる、どうしようもないダメな女だと思っていたのに。
たけちゃんが怖かった。
保の手じゃない、知らない手が怖かった。

そして、次に湧いてきたのはなぜか、大きな罪悪感だった。



――保に、会いたい。……会わなきゃ。







保の家に付いた時にはもう、6時近くになっていた。
夕焼けの紫色だった空が、もう菫色くらいになって、暗さが増している。

外から見る保の部屋にも、もう電気が点いていた。


鍵も掛かっていない玄関を叩き、引き戸を開ける。
「ごめんください、五條です」と声をかけると、
夕飯を作っていたらしいエプロン姿の保のお母さんが出てきた。

どこの家とも昔馴染みの親戚みたいなものだから、
保のお母さんも私が「おばちゃん、保君に宿題教えてもらってもええ?」と聞くと、
「あの子で役に立つんならうんと教えてもらい」と笑いながら家に上げてくれた。



踏みしめるたびに少し、キィと鳴く階段を上がって保の部屋のドアを叩く。
そういえば、もう何年も保の部屋には入っていないのだと今更気づいた。


気のない返事がドアの向こうでする。


緊張で震える手でドアを開けると、ベッドに腰掛けマンガを読んでいた保がこちらを見た。



「繭?」
「ごめん……。いきなり来て……」



ぱたん、と後ろ手にドアを閉める。
緊張したら口の中って本当にからからになるんだなんて思いながら、
保の顔色をうかがい、言葉を探した。



「いや、別にええけど。どうかしたんか」
「あ、えっと……ね、……えっと…………」



どうかしたのかと聞かれると、どうもしていないような気もする。
たけちゃんに告白されて、キスをされて、押し倒されて。
無関心そうに「やけーどした?」とでも言われたらどうしよう。

そんな事を思っていると、私を見る保の眼が急に険しいものに変わった。



「……あいつ……」
「……?」
「武信に、なんかされたんか」
「な、なんかって」



まだ何も言ってないのに、どうしてたけちゃんの名前が、と思っていると、
保が私の首を指差し言った。



「首筋」
「え?」
「キスマーク、つけられとる」
「えっ?!」



ばっ、と首筋を見ようとするけれど自分からは見えない。
いたたまれない空気に指差された場所を手で覆い俯いていると、
保の溜息が聞こえてきた。




「はぁ……。繭、ちょいこっち座れ」
「え……う、うん……」



ぽんぽん、とベッドの脇を保が叩く。
もしかしたら怒られるのだろうか、と、
そんな風に思うほどに保の表情はいつもより厳しかった。

恐る恐る部屋の中へと足を進めベッドへ腰をかける。
数十センチ隣に座る保がまた、溜息をついた。



「ひどいことはされとらんな?」
「ひどいって……」
「繭、全部答えろ」
「ぜ、全部……」



全部を告げるのはたけちゃんに対してデリカシーのない事だとわかってる。
だけど、保に聞いて欲しいと思ったからここに来たんだ。
自分だけで受け止めきれない、胸の中で大きく渦巻いてるこの感情を。



「告白されたんか」
「…………う、ん」
「それで?」
「…………」
「繭」
「キ、キス、された」
「……そうか」
「初めての、キスやったんよ」
「……そうじゃろうなぁ」
「か、からだ、触られて……」
「…………」



さっきの出来事を保に話しているうちに、気がついたら涙が出ていた。
たけちゃんを裏切っているような気持ちを味わったこと。
保を、自分を裏切っているような気持ちも。
そしてなによりも、怖かった。



「い……嫌って、思ったんよ……」
「なんが」
「たけちゃんの手……。たけちゃんの事、好きじゃけど、でも、なんでか、嫌って思った」
「……」
「うちの知っとる手じゃなかった」



自分に触れる手は保しか知らない。
だからそれは当然だったけど、それを抜きにしても、たけちゃんに触れられるのが、
嫌で、怖くてたまらなかった。



「すごい、違和感……なんか嫌って、思ってしもうた……。保の手じゃ、なかった……」
「……そぉか」



胸の中にあった塊を保に伝えると、自分でも呆れてしまうほどに涙が溢れて止まらなくなった。


どうして、保に触れられるのは嫌じゃないんだろう。
どうして保は私に触れるんだろう。
そんなことをちゃんと考えなかったからきっと、今、こんなに苦しいんだ。

何も考えずに保との秘密を続けてきた罰なんだと思っていると、
保が私の頭をくるっと自分の方に向けさせ、そして尋ねた。



「繭、一個、聞いてもええか」
「ぐずっ……っく、……なん?」
「俺がただ、人形相手にするみたいにお前の体で遊びよるだけと思っとったか?」



その言葉に、ドクンッ、と胸が鳴った。
初めてだ。
保が、あのかくれんぼの事を、押し入れの中じゃない場所で話すのは。



「俺が別にいい人じゃないんは、お前もよお知っとるとは思うが」



どういうのをいい人と言うのかよく分からなかったけど、
確かに保はただ優しいとか、そういう感じの人じゃない。
その行動には必ず目的があって、理由なしには絶対に動かない。

だけどそう言われて改めて考えを巡らせても、
保の意図は私には分からなかった。



「わ、わからん……でも、保はいっぺんもあれで…………イッたり、……してない。
保は気持ちいい訳じゃないって事じゃし……ほしたら目的がなんかは、私にはよう、わからん」



ぼそぼそと言いにくい言葉を選んで告げると、保は淡泊な口調で言った。



「こういう日のため」
「え?」
「繭がどこにもいかれんように」
「どーゆうこと……?」
「俺もお前と一緒っちゅーこと。どうでもいいヤツに触るんも触られるんも嫌なんだろうが」
「え……?」
「……はぁ。……にしてもほんまに鈍い女じゃのー……」



保の言葉は曖昧でどこか抽象的で、私にはやっぱりよく分からなかった。
こういう日がどういう日で、
かくれんぼと私がどこかへ行くこととがどう繋がるのか、
どうでもいい奴っていうのはたけちゃんの事かと考えていると、
保がまた、長い溜息をついた。



「繭、悪いけどな、今からしばらくお前の要望は一切聞けん」
「……どーいうこと?」



ようやく止まった涙の最後の一粒がほっぺを流れた。
頭に置かれたままだった保の手が、ぽんぽん、と私の頭を撫でる。
その優しい感触を不思議に思っていると、すっと、保の眼が変わった。



「限界」
「え?」
「かくれんぼの、その先をするってこと」
「先って……え、まさか」
「犯すよ、お前んこと」



その言葉には、一言も反論できなかった。
驚きに声を上げようとした瞬間にはもう、保の手が私の口を押さえていたから。



「ンン!」



ベッドに身が沈む。
身体の上に保が乗っかって、口と同時に頭を固定されて、私はあっさり動けなくなった。

口を押さえる保の手を両手で動かそうとしていると、
その隙にもう片方の手が制服の襟口に伸びてきた。



「初めてじゃなあ、こげん明るい所で繭に触るんは」
「ん、ンンンッ!」



そう、どこか嬉しそうな声で言ったかと思うと、
保の手が、ブチッ!と音を立てて、制服のシャツのボタンをむしり取った。



「ッ!?」
「……限界って、ゆうたじゃろ?」
「ンっ!ンゥ!」



服が、ブチッ、ブチッ、と引き千切られる音を立て乱暴に開け広げられていく。
保の言うとおり、初めてだった。
自分の姿も見える。
保の姿も、手も。
明るすぎて何も隠せない。

恥ずかしすぎる。



「今までどうされよったか、よう見とけ」



そう言うが早いか、最後のボタンを千切った保の手が、
そぅっと、ブラのカップを下にずらした。



「んっ!んぅぅ!」



視界に、ピンク色の乳首がちらりと覗いたのが見えた。

ぶんぶんと首を振ろうともがく。
保の腕を掴んで、その侵攻を全力で止めようとした。

だけど、手遅れだった。

保の人差し指と親指が、くにっと、乳首の先を摘まんだから。



「ンっっ!」



どうしてだろう。
ただ、それだけの事なのに。
どくんっ、と、血流が熱くなる。
腰も頭も溶かす電流が口から甘い吐息を出させる。



「どした?止めるんじゃなかったんか?」



意地悪そうに笑った保が、一瞬我を失った私の全身に被さってきた。
口は塞がれたまま、保の顔が私の頭の横にあって、
もう片方の手は、私のお尻の下へと潜り込んでくる。



「お前、ほんまに弱いなぁ」
「ッ……!」



耳はやめて。
そんな気持ちは全部伝わってるはずなのに、保は態と唇が触れるほど耳の近くで
ぼそりと囁いた。

仰向けになった私の視界には、保の髪の毛と、部屋の天井しか見えない。
身動きも取れない。



――でも私、いま、怖くない。……犯されそうになってるのに。……保だから?



その疑問に答えが見つかる前に、耳がまず、保に犯され始めた。



「んっ、んん!ふ、ッ、ンッ!」



耳の中を何か軟体動物が動いてるみたいに、ぐっぢゅ、ぐっぢゅと舐められる。
時々保の、少し乱れた息も聞こえる。



「どんくらい俺が限界か分かるか?」
「んっ、ン!、んぅ……ッ!」



ぐっ、とお尻に保の手が食い込んだ。
だけどそれだけで止まるわけもなく、保の手はそのままショーツの境目を分け入って、
直接、お尻の谷間を通り、そして、私の膣口へと指が伸びてきた。



「っ……、もう、ぐっちゃぐちゃ、か。俺もよー今まで我慢できたわ……」
「ッッッ!んー!っ、んっ!」



そして、そのまま進められた指は、花芽を下からくっと押し上げた。
悲鳴に近いうめき声を上げ、私は身体をよじる。
ばたばたと手で保の背を叩く。



――でも……。



「繭、気持ちええか……?」



――気持ちいい……。全然、嫌じゃない。



愛液を塗りたくられすべりが良くなって、
保の手でコロコロとしこりを転がされるのがたまらなく気持ちいい。



「返事は?」
「……ん……っ、んぅ……っ!」
「ほおか」



こく、と躊躇いがちに頷いた私をみて、保は嬉しそうな顔をした。
そういえばいつもは真っ暗で、保の顔さえも私は見えてなかったんだ。



「……武信が我慢できんかったのも……分かる気がする」
「んっ?」
「眉間に皺寄せて、泣きそうな顔して、でも顔赤ぁなって、いかにも感じよるっちゅー顔」
「ッ!」
「初めてちゃんと見るな、これまでさんざ、やらしーことしてきたのに」



どんな顔を私はしてるんだろう。
そんなことを思っていると、保の手が私のショーツに指をかけた。

脱がされちゃう、そう思い脚を閉じようとした時にはもう、
びっくりするくらいするりとその布地は足首までおろされていた。



「っン!」
「……残念。もう脱げたで」
「っ、んぅ、んん!」



そう意地悪く呟くと、保は私の口を塞いだまま、
足首を持ち上げ、そして脚を高く高く持ち上げた。

それは、恐ろしく恥ずかしい恰好だった。
スカートが、捲れていく。
脚が持ち上げられ、何にも覆われてないアソコが、保の目の前に差し出される。
そして何よりその様子が、自分にもはっきりと見える恥辱に、
私は目を堅く閉じて悲鳴を上げた。



「んんんんんんん!!」
「まんぐり返しっちゅーんて、これ。片手じゃキツイけど繭軽いし」
「ンン!!!ン~ッッ!!!」
「繭、おかんに聞こえるで……?」
「ッッ!……ふ、ンン……ッ」



保に言われた一言で私は抗議の悲鳴を封印されてしまった。
そうだ、おばちゃんが下にいる。
見つかっちゃう。



今更ながらに声を抑えた私を見て、保は何も言わず、
私のアソコに舌を伸ばしてきた。



「っ!!!」
「愛液、すごい溢れとる」



目の前に、信じられない光景がある。
保の舌が私のそこを舐めてる。
膣口から溢れた愛液も。
そんなとこ舐めないで。恥ずかしすぎるから。

そう伝えようと言葉にならない声を上げようとしたけど、
出てきたのはただの抑えた喘ぎ声だった。



「っん!っ、ん、んっ!」



抵抗するとか、どうしてこうなってるのかとか、
そういうことがどんどんどんどん、すごいスピードで頭の中から流れ出ていく。


うっすら開けた視界で、保の舌に突起が吸われるのがよく見える。
そのたびに、腰の奥が痺れて、脚は自然にだらんと力を失っていた。

淫質な音が聞こえ、からくり人形みたいに私の身体はびくびく跳ねる。
抵抗の声を出さなくなったら今度は、蕩けてまるで媚びる様な息が鼻から漏れるばっかりだった。



「……そのまま声、自分で我慢しとけよ?」



そんな私の様子をじっと見ていた保はそう言うと、
私の口を塞いでいた手をどけた。



「た、もつ」
「……繭は、誰が相手でもこげん気持ちよーなるんか?」
「ッん!」
「俺じゃのうても」
「っ!っ!」



保の指が、すっかり開いた膣口に浅く、くぷりと挿れられた。
手の甲に、強く強く噛みつきながら私は悶えて、考えた。



――ちが、う。



保の舌が、また、快感の証におっきくなってる花芯に吸いついた。



「ちがっ……!っは、ン!ッ、ふ、……ッ……!」



――…………違う。保じゃないと嫌、なんだ。



快感の嵐に飲み込まれる直前の脳みそが、そう、私に答えを告げた。



「ぁ、ふっ!」



その答えが出た瞬間、それまでの何倍もの快感が全身を襲った。



「また、溢れてきたで?」
「んぅっ、っ、ぁ……」



じわっ、とぬるつく愛液が溢れ出た感覚は、自分にも分かった。
吸われるたびに陰核は大きく充血していく。

ほんの指先だけ挿れられていた指が、ぐずずっ、と深度を増したと思ったら、
同時に保の舌先が莢をめくり、直接赤く腫れた芯をねぶった。



「ひぁっ!ッ!はっ、ぁ!ぁ、あ」



痛みを覚悟した身体に襲ってきたのは強烈な快感だった。
ひりつく程度の違和感があったけど、びんびんと突き抜けるような刺激に、
私はただ呆けたような声を上げ続ける。

そして、抜き差しされる指の動きが激しくなっても、
秘芽を強く吸われても、私は保のその動きから目が離せなくなっていた。



「っ、ふ!……ぅ、ぁっ、んぅあ、ぁっ……!」
「声、我慢せえって」
「イ、きそ……っ」
「……知っとる」



保に、触られてる。見透かされてる。
全部が気持ちいい。
責められてることも、こんな格好させられてることも。

熱に浮かされ躾けられた頭の中ではもう、
絶頂を欲しがって保におねだりをしなきゃと、それだけを考えていた。



「たもつ……っ、身体んなかあつい、っぁ……い、いかせて……?」
「……」
「ふあぁっ、あっっ!!イって、ええっ?舌、きもちい、っナカ、切ないよぉ……っ!」



そう、大きな波に飲み込まれそうになり思わず出た声に、保は動きを止めた。



「っあ、あぅぅ……ん、な、んでぇ」



はしたないなんてそんなこと思う理性はもうどこにも残ってなかった。
どうしてやめるの?と抗議の目をただ保に送る。
気持ちよさはあと少しで、絶頂の真っ白な所に連れてってくれたのに。


駄々をこねるように素直に思っていたことを口にすると、
保は息を飲み込んで私の顔を見た。

目をつむり、そしてもう一度私の顔を見て保は言った。



「繭。ほんまに声、我慢せぇよ」



そしてそう言うと保は、それまで着ていた服を全部脱いだ。
シャツも、ジーンズも、トランクスも。

当然のように自分とは違う身体で、
分かり切ってることだったけど、下半身には、私にはないものがあった。

あれがいつも布地越しに触れていた熱の正体。
自分にはない大きな器官に本能的な恐怖と、昂奮を覚える。

あれが、疼いて仕方ない私のなかに埋まるもの。



「っ……」
「目ぇ逸らすな」
「だって」



息が上がる。思わず目を逸らした私を保が制する。
どこを見たらいいのかも分からず視線を泳がせていると、保が私の手を握った。
そこまではいつものかくれんぼの時と一緒だった。
合意を試すようなその仕草。

だけど今日は、違った。



――……いつもと違う。



保は私の両手首を片手で握りしめると、
そのまま私の頭上に押さえつけた。

がしりとばんざいをした形に留められ、
激しく脈打ち始めた心臓に痛みを感じながら保を見上げる。



「……言うたじゃろ。犯す、て」



膝の裏に手をかけられ、片脚が持ち上げられた。
もう、その一つ一つの動きから目は逸らせなかった。



――犯される、犯されちゃう。保に。



大きく開かされた脚の間に保の腰が割り込む。
ごそ、と保の手が下半身で動かされると、
アソコに、ぴったりと熱いものが触れた。



「……ぐじゅぐじゅ。俺んと混じって……すごい糸引いとる」
「っふ、く……ぁっ」



下半身で保が、きっとその硬くなったものでアソコをかき混ぜてる。
しばらく、ぐちゅぐちゅと混ざり合う音が聞こえて、
そしてくぽ、と、凹凸がかみ合うような場所に出会った。



「ぁ」
「繭」



そう私の名前を呼んだと思ったら、保の顔が私の目の前に迫った。
気がついた時には唇が触れあってて、舌が、口の中に入っていた。



「んっ。ッンぐっ……!?……ッッ!!!ンンッ!!!ンー!!!」



その後はもう、なんの躊躇いもなく保の塊が、私の中をズブズブと貫いていった。
ぷちぷちと膣が裂けてる気がする。強烈な痛みが襲う。
犯されてる。
同時に口の中を舐めまわされて、頭の中が混乱した。



「ンぅっ!!」
「ッ……は、……キツすぎ」
「は、……はっ、ぅ、あ、っぁ……」



ズンッと、一番奥に保が入ってきたとき、喘ぎとも呻きともとれる声が漏れた。
自分でも触れたことのない部分が、保に擦られ開かれてしまった。



「ッ、入ったで、全部」
「はいった、……さっきんが?……っあ」
「ッ、は、……そー。俺んチンポが、繭のマンコん中に、ぜーんぶ、ッ、はぁ」
「っ……犯され、た……?うち、たもつに……」
「まだ、途中じゃし」
「んああッ!」
「っ、言うことの、聞けんやつやのー」



保が腰を動かすと、ずるっずるっ、と大きな塊が膣壁を擦る。

キラキラと星が舞う表現で描かれた少女漫画とは全然違うと頭の隅で思った。
保が腰を引くとようやく息ができて、また深く深くまで押しこまれる予感に胸が苦しくなる。
ぐぢゃっ、とたまらない音と一緒になって膣内に保のアレが押しこまれると、
かくれんぼの時と同じように嬌声をかみ殺した。

この背徳感はなんだろう。
だけどきっと、保がいうように私は、被虐を悦んでるのかもしれない。
イタイ。
それなのに、苦しい程の圧力も腕を押さえられてるその力も、
一見理不尽なこの状況も、どうやっても快感に繋がる。



「繭、肩でも噛んどけ」
「はっ、はぅ、んっ……ん、ッあむ……ッ!」
「感じるんか?」
「ん、んぅ……っ」
「犯されて?」
「……ッ、……んぅ……」



余りの恥ずかしさに目尻から涙が出た。
保が私の身体を欲して、弄んで、犯して。
それがこんなにも気持ちいい。



「ヘンタイ」
「んぁっ!ッ!、っ!ンっ、はっ、はっぁ!」
「ッく、は、ぁ、繭んマンコ、気持ちええ……、っ」



保の口から出される卑猥な言葉に私は煽られる。
そして、何度も何度も繰り返し抽送を繰り返されるうちに、
じんじんとした熱が下半身に生まれてるのに気がついた。



「腰、止められん、なッ、は。やっぱ……武信に、やるわけにゃいかんなぁ」
「んっ、ぁ、たも、つッ、あぁ、ぁっ、アソコ、へん……っ!」
「どこ」
「ああ、ぅ、っ、お、マンコなか、も、クリトリスも、保に潰されよるん、じゃもんッあ!」
「ッ、もっと、潰したら、どーなる?」
「いあぁ……ッ、おかしく、なっちゃう!へん、からだ、おかしくなるぅっ!」



その私の言葉を聞き出すと、保は猛烈な勢いで腰を私に打ちつけ始めた。
身体がぶつかる音も、水が弾ける音も、全部混じって部屋に響く。
ぴったりとくっつけられた下半身で、勃起した私のしこりが、
保の動きに合わせてぐいぐいと押しつぶされているのだ。

処女だけど、それ以外の場所はもう、快感を知ってる。
だからその繰り返される刺激はどうしようもなく脳を蕩かせた。
そしてそれに反応するように尖った乳首を、保の片手がぎゅううと捻った。



「んぁぁぁぁぁっ!!」



必死に抑えていた声も、そもそも声を抑えなきゃということも、
その瞬間頭の中から吹っ飛び、我慢する間もなく私はイッた。
びくんっ、びくんっ、と勝手に身体が律動し、保を締め付ける。
その時にはもう、ひりつく破瓜の痛みも押さえつけられた今の恰好も、
全部、快感の材料に置き換えられていた。



「ッく、し、めつけんな!」
「ッ、いっちゃ、ったぁ……、ッ、あぁ、ん、っあ、はっ」
「声は我慢できん、約束は守らん、勝手にイく。……繭、そーゆう時は?」
「ごめ、なさっ、あっ、ぁ、たも、つ……私のからだおもちゃに、して……っ」



ずくんずくんと貪欲な身体がまだ疼く。
かくれんぼで躾けられたもう一つの言葉。
一言一言口に出すごとに、自分がそれを本当に望んでるんだと思ってしまう。



「最後な、俺がイク時、繭が、手で扱け」
「んん、っは、あ、しごく?」
「そう、手で握って、擦る……できるな?」
「んあっ!っ、また、入ってくるぅっ、んぁん!」
「ッく、は……ったく、感度良すぎやし。繭、舌出せ」
「し、た?……ん」



保の指示に私は素直に従う。
舌を、うんと口から伸ばすと保がそれを吸った。
そして、また小刻みにでも確実に、私の中を深くえぐり始めた。



「んぷっ、ふ、んぅ、んぅ、ッ!、ふっ、っふ、ふぁ、ぁっ!」
「……ッく、は、……繭んナカ、ぎゅうぎゅう締めつけてくる」
「っ、ぁ、ん、ちゅぁっ、ふ……は!」
「いっぺん、イッたけー……、またすぐイクんだろうが」



悔しい事に、保の言うとおりだった。
一度火のついた身体が、次に向けてまた走り出す。
保の身体が私に打ちつけられるたびに、
花芯がじんじんとあからさまな電流を全身に送り、
保の片手が乳首を転がすと、全部が混じってまた溺れた。
その声を出したいのに舌を奪われ、互いの涎で頬はべちゃべちゃに濡れそぼって、
その乱れ切った情景に、快感を新たにしてしまう。

うっすら開けた目の先には、眉間に皺を寄せ、耐える様な保の顔があった。



「は、ッ、……溺れさすのー、お前はほんまに」
「んんんんっ!はっ、ん!ったも、つだ、め……っ、また、イ、きそっ……!」
「やらしく、ねだれよ?そーいうのが、好きだろうが……っ」
「い、イかせて!もっと、いっぱいったもつのおもちゃにして……ッ!ナカ、突いて……ぇ!」
「く……よお、言えました」



どろどろに溶けたまま、恥じらいもなく私はその言葉を口にする。
保はそんな私の口を自分の口で食べるように塞ぐと、
上から、秘芯を本当に擦って潰すくらい激しく突いてくれた。



「んぷっ、あぁっ、ぁ、ぁ、っふぁ!ぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」



絶頂の喘ぎ声が保の口の中に吸い込まれる。
ぴゅ、ぴゅっ、と噴き出すような愛液が零れ、保と私の境界を濡らした。
保の塊は、私を絶頂に追いやった後すぐに抜かれ、そして荒く息をつく私の目の前に突きだされた。



「ッく、繭……」
「っあ、ふ、あ、あぅぅっ!」
「はや、く」


その目の前の器官に、そして保の切なげな声に私は胸がドキドキした。
自分の愛液でぬるぬると光ってるその塊に両手を添えると、
どうすればいいのか、自然と分かった。

私の手が、膣の代わりになればいいんだと。



「ふ、ぁ、っ、あっ……!」
「ッく、ぁ……っ」



私の肩の横に膝を、ベッドボードに肘をついた保が、苦しそうに私の動きを見る。
顔のすぐ前に保のアレがあって、擦るたびに先の割れ目からは透明なお汁が零れた。
私の手が、保を気持ち良くしてる。

自分が責められてるわけじゃないのに、脳が焼けそうに昂奮した。
ほんとうに、おもちゃにされてるのかもしれない。
でも、相手が保なら、それでもいい。


そう思った瞬間、扱いていた保の塊が急に膨らみを増した。



「ッッ、く、はッ、ま、ゆ……出すで?」
「っく、んっ、イってぇ、たもつ、っあ、たもつ!」



思ったことがそのまま言葉になった。
顔のすぐ目の前にある保の、透明のお汁を溢れさせていたところがぐぅっと膨らんで、
そして、すごい勢いで白い粘液が私の顔めがけて飛んできた。



「っあ!ッあぁっ、ンっ、たもつ、が、イきよる……っ」



保がイってる。私の目の前で。
そう思ったら頭のヒューズが飛んだみたいに昂奮して、
そしてその欲望に突き動かされるままに、私は保の先端を口に含んだ。



「あむ……っ」
「ッッッ!バッ、カ!!」
「んぷっ、んぷっ!んっ、んっ、ふ、んぅっ!」
「っくぅ、ッ!ハッ、ぁ、ハッ、……!」



どくんっ、どくんっ、と保の精液が私の口の中にいっぱいいっぱい注がれる。
なんでだか下腹が疼いてしょうがなくて、
愛おしくて、頭の中が快感一色に染まって、イってもいないのにアソコがひくひく蠢いた。

口の中に溜まったトロトロはしょっぱくて苦くて、
でもどこかで身に付けた知識に従ってこくんっと飲み込むと、
絶頂の息遣いがさめきらない保が驚いたような目をして言った。



「っ……ドMが……」
「は、ぅ……保が、そーしたくせに……」



保のその言葉に対抗するような考えは一切起きなかった。
だってそうだと思ったから。
頬に、瞼に、髪に、まだついてた保の精液がぽたっ、と胸に落ちた。
ひどいことをされている、そう思えば思うほど、熱くなる。
だけどそれが、相手が保だからだと、ようやく気がついた。
私は、馬鹿で、鈍くて、どうしようもなく保に溺れてる、と。



「たもつ……気持ちえかった……?」
「……さぁ」
「ここ、きれいにしても、ええ……?」
「……はぁ……やっぱり、……武信には渡せんなぁ……」



保はため息混じりにそんな事を呟いてから私の頭を掴み、自分のアレに押しつけた。
一度イったけどまだ硬いその塊に私は舌を這わせ、残滓を舐めとる。
そしてそのあと、今度は背後から貫かれるまでに、そう時間はかからなかった。



――見つけた。ほんとの気持ち。胸のずっと奥に隠れてた。



だから、たけちゃんに言わなきゃ。
ごめんなさい、と。







翌日、村にある唯一の公園にたけちゃんを呼んだ。

公園に現れたたけちゃんはすでに私の答えを知ってるかのように、
沈んで、どこか緊張しているみたいだった。



「たけちゃん……」
「……はぁ、あんま聞きたくねーなぁ」



そういうたけちゃんに負けそうになったけど、
自分の胸の奥に見つけた気持ちはもう隠せない。



「……あんね……うち、たけちゃんとは付き合えん」
「…………」
「ごめん……」
「…………やっぱ保か?」



緊張と罪悪感で胃が痛くなりながら、たけちゃんにそう告げると、
たけちゃんの口からなぜか保の名前が出てきた。



「え?……なして?」
「はぁ……そりゃあ、保、ずっと昔っから繭んこと好きじゃったし」
「えっ……?」
「田舎やし、好きなやつがかぶるなんかよーある話だが」
「……」
「知らんかったんか?」
「……知らん……。保から、好きとか、一言も……」



今までの記憶を総ざらいしてみても、保に「好き」と言われた記憶は見当たらない。



――あれ……でもそういえば。



そういえば、昨日、保は私にはよく分からない曖昧な事を言っていた。
どうでもいい奴には触らない、と。
それは、もしかして、……そういうことだったんだろうか。
だとしたら、確かに私は恐ろしく、鈍い。



「相談……つか、報告したんよ、保に。俺も繭ん事好きになったって」



自分の鈍感さに頭痛さえ覚えていると、たけちゃんがそんな裏話をし始めた。
だから昨日、キスマークを付けられてた私をみて保はすぐに、たけちゃんの名前を出したんだ。



「繭が決めることやけ、俺には関係ない、とか言いよったが。あいつ無愛想じゃし不器用じゃけーなぁ」



なんだかどんどんと馬鹿らしい気持ちになってきた。
保が何を考えてるか分からないんじゃなくて、
私が鈍すぎただけなんだ。



「告白でもされたんか?保に」
「……ううん」
「ほうか。……でも繭は保がええんだろ?」
「…………うん」



でも鈍くて馬鹿で回転も遅かったけど、もう見つけた。
もう見失うこともないくらいはっきりと。



「はぁ、まあ、しょーがなか。もっと昔から、時間かけりゃーよかったなぁ」



そう言い残して、たけちゃんは公園を去って行った。
私は、伝えなければいけないことを胸に抱きしめて、保の家まで走った。







畑にいた保の両親にお邪魔しますと手を振って、
玄関の硝子戸をあけてすぐに階段を駆け上る。

その音ですでに私だと気づいたらしい保は、ドアを開けるとすぐそこにいた。



「やかましい」



ぽこっ、と頭を叩かれたけど、保の表情は何かを窺うような目をしていた。



「たけちゃんに、返事、してきた」
「……ほおか」
「付き合えんって」
「…………」



私の言葉に、保はこれと言って表情を変えなかった。
でも、私はそれ以上に伝えなきゃいけないことがある。

だから顔を上げて、保の目をしっかり見て、言った。



「うちね、保んことが、好き」



俯きたくなるほどの緊張を堪え、震えながらそう言うと、
保は少しだけ驚いたような目をして、そしてまた、私の頭をぽんと優しくはたいた。



「……遅ぇが」
「うん、ごめん。……鈍くて……」
「確かに。鈍すぎるし、ちょい馬鹿やし」
「ぅ……」



ここぞとばかりに痛いところを保が突いてくる。
だけど次の瞬間、保の気配が少し変わった。
ダメだし攻撃に思わず俯いていた顔を上げると、
熱のこもった保の目と視線が絡んだ。



「繭」



少し掠れた声が、私の名前を呼ぶ。



「かくれんぼの先、しよか……ここで」
「…………うん」



その掠れ声に、ギュウと胸が痛んだ。
ああ、これは恋の痛みだったんだと、その時初めて私は知った。


部屋の中に足を踏み入れた私を逃がさないとでも言うように、
保が後ろ手にドアをぱたん、と閉めた。



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